フジテックは、1948年に大阪で創業した昇降機(エレベーター、エスカレーター、動く歩道など)の専業メーカーです。国内2つの生産拠点に加え、東京と滋賀県に本社、全国132の支社、支店、サービスセンターを構えています。私たちビッグステップ製作所は、兵庫県北部の豊岡市に位置し、生産拠点の一つとして国内エスカレーターの研究開発・製造を行っています。従業員数は約180人と小さな規模ではありますが、従業員の意識改革を行い、自発的な改善を続けてきました。
当社は、2028年度までの中期経営計画において、「不易流行」の考えのもと、独自の強みを活かしながら、更なる企業価値向上に注力することを方針に掲げています。この方針に基づき、当事業所固有の課題である「大手総合電機メーカーとの競合」「人材が集めにくい人口減少地域特性」「事業のベースとなる安全と社会貢献」に向けて、さまざまな活動を展開してきました。本日は、その中でも特徴的な施策を紹介します。
シェアを拡大していくため、私たちは、お客様要望の仕様に応えながら標準品の受注も獲得するものづくりへの革新をめざしました。そこで、ものづくり効率化活動として「ものづくり革新」「自動化推進」「ものづくり特許取得」「ものづくり強化活動」の4つの取り組みを展開しました。
まず、ものづくり革新として、標準仕様を量産する組立ラインを見直し、特殊要素の作業と標準要素の作業を分散させることで、リードタイム短縮、作業者のスキルレベルに合わせたお客様仕様のものづくりを実現しました。
自動化推進では、加工設備や無人搬送機の導入、RPAによる間接作業の自動化を進め、工数改善、間接業務の削減、省人化を図りました。さらに自動化で生まれたリソースを生産強化や改善促進、技能向上に利用し、企業の成長を推進してきました。
また、ものづくり特許取得は、私たちの特筆すべき取り組みの一つです。工場のものづくり部門が主体となり、生産手法、省力器具、治具を提案・考案し、特許を取得しています。社内申請を経て、すでに7件が特許登録を完了しました。他社が真似できないという利点もありますが、事業所員のモチベーションアップ、改善する視点や能力の向上にも寄与しています。
さらに、ものづくり強化活動として、人材育成、職場活性化、利益向上を目的とした改善活動を行い、年2回の成果報告会で上位グループを表彰しています。
品質向上は、会社理念である不易流行の「不易」の一つに掲げられています。品質向上の取り組みとして、主に4つの活動を行い、製品クレーム件数が5年で20分の1に減少しました。
1つ目の活動は、部品品質の改善活動です。3H(初めて、久しぶり、変更)の変化点で不具合が多く発生していたことから、3Hの管理強化に着手しました。当社で品質リスクを予測し、対応すべき事項を取引先に事前共有。取引先は不具合がないことを確認し、検査結果を出荷前に報告します。この流れを共有リストで管理・運営する仕組みをつくりました。
2つ目は、週次品質会議です。会議では、不具合発生部門だけでなく、技術、生産、品質管理のさまざまな観点から討議し、真の原因追求と効果的な対策を実行しています。
3つ目は、工程品質パトロールです。製作所長、品質管理部幹部、生産部幹部、工程リーダーが品質管理の観点から製造現場のパトロールを実施し、幹部、リーダー、作業者が直接意見交換できる場となっています。
4つ目は、QCサークル活動です。以前は国内工場だけの合同開催でしたが、現在は海外工場も加えてグローバルに拡大しています。当事業所では全部門参加で運営し、2024年度は初めて外部の兵庫県大会に出場して奨励賞を受賞しました。
「安全安心の追求」も当社の不易流行の「不易」の一つですが、当事業所では2019年から4年連続で労働災害が発生していました。これ以上の発生は許されないという思いから、安全衛生活動の改革に力を入れて取り組みました。
まず実施したのが、独自の安全意識調査です。約30項目を設定して毎月全員に調査を行うもので、初回の認識度は平均60点程度でしたが、半年で全員が100点を達成しました。教育と調査を繰り返し、100点になるまで継続したことがポイントで、安全意識改革の下地をつくることができました。
次に、一つのエリア、一つの作業を複数の目でウォッチする定点観察パトロールに取り組みました。2023年度は35工程で実施し、作業者の安全意識向上、危険な作業の減少に繋げることができました。
さらに、労災の発生を想定した緊急時対応訓練を行いました。訓練をしてみると「救急箱が遠い」「出血時は手袋をして対応する方がいい」など、具体的な意見が活発に出され、そもそも事故を起こしてはいけないという安全意識の向上にも繋がっています。
また、2024年度は新たな取り組みとして、新入社員と工程担当者を対象に、体験型の労働災害模擬訓練を実施しました。割り箸を入れた軍手がプレスブレーキに挟まれる様子や、ボール盤に軍手が巻き込まれる様子を実演し、危険性を再認識してもらうことができました。
こうした取り組みにより、2.5年以上無災害を達成し、2024年度は社内の安全表彰であるテッキー賞を受賞することができました。
当事業所の事業内容や規模では、カーボンニュートラルなど大きな取り組みは難しいのですが、できることから少しでも環境に貢献したいと知恵を絞っています。その一つとして、従業員の家庭から出る使用済みのてんぷら油からバイオディーゼル燃料を精製し、構内運搬用トラックの燃料に利用しています。
また、電力監視システムや通信装置を内作して消費電力を可視化する仕組みを構築し、運用しています。システムや設備を自分たちで考案してつくったことで、電力使用量への関心度が高まり、環境意識の更なる向上に繋がりました。
当事業所は、兵庫県の中でも大都市の神戸や姫路から離れた場所にあり、少子化、高卒就職者の減少、都市部への人口流出などの影響で、地域での新卒者確保が難しくなっています。そこで、採用部門だけでなく、事業所全体で地域での企業PRや独自の採用活動を展開しています。
特に若者向けの活動として、中学生向け就業体験「トライやるウィーク」や、高校での地元企業説明会に毎年参加し、中高生にフジテックの仕事を紹介しています。実際、トライやるウィークに参加して、高校卒業後に当事業所に就職してくれた社員もいます。
また、近畿・北陸・中国地方の大学、高専での新卒採用には、製作所長やその学校のOB社員が同行し、採用部門の担当者とともにPRに努めています。近年は正社員採用の約半数をキャリア採用が占めていることから、地域のハローワークでも就職相談会を実施し、採用活動の範囲を広げています。
人材確保に力を入れて入社してもらっても、退職が多ければ労働力不足の解消には繋がりません。従業員が誇りを持ち、働き続けたいと思える職場をつくるため、社員満足度調査「にこにこリサーチ」の結果を分析して、風土改革活動に活用しています。
活動の一例として、グッジョブメッセージ活動があります。従業員がSNSの「いいね」のように簡単なメッセージを送り合うもので、送られたメッセージは毎朝始業前にまとめて届くため、気持ち良く1日のスタートを切ることができます。
さらに、社員と家族にオープンハウスを行い、部門や立場を超えた社員間コミュニケーションのきっかけを作っています。企画運営は、幹部職、正社員、パート職員のチームで行い、毎回少しずつ改善アイデアを加えて満足度を高める工夫をしています。
こうした活動の成果もあり、2024年度の社員満足度調査の結果が改善しました。当事業所の平均勤続年数は全国平均を上回る数値となり、入社3年以内の離職率は3年連続で0%を維持しています。
フジテックは、国内外の競争が激しいエスカレータ事業において、近年は国内年間設置台数でトップクラスのシェアに発展しています。これは、大手総合電気メーカーとの競合、人材確保が難しい地域性などの課題に対して、現状を把握し、自発的にいろいろな取り組みを行ってきた成果だと考えています。
今回の審査では、評価を受けるだけでなく、より良くするための貴重なアドバイスやご指導もいただきました。たとえば女性活躍については、もっと女性目線で改善すべきことが多くあるとアドバイスをいただき、次の「流行」ととらえて更なる飛躍にチャレンジしていきたいと思っています。
発表の中にもありましたが、中学時代に就業体験に参加されて、高校卒業後に入社された方と、現地審査でお話しする機会がありました。その方は現在、自ら就業体験の推進委員になって活動されていて、それだけ自分の会社が良い会社だという自信を持っておられるのだなと、とても印象に残っています。
従業員一人一人の心を変えながら、「ビッグステップ」の名の通り、大きな一歩で前進している事業所だと感じました。