連載『農家になろう!』最終回/農家としてどう稼ぐ?
2015.03.25
■お客さんとの出会いが、明日へのパワーになる!
土地なし、コネなし、技術なし。ゼロから農家を目指すための連載もついに最終回!畑の入手方法(第一回)、作物の育て方を学ぶルート(第二回)を経て、今回はついに「農家としてどう稼いでいくか」に斬り込んでいきたいと思います。
ある意味人生をかけて農業の世界に飛び込むのですから、『いかに稼ぐか?』このテーマは是非とも押さえておきたいところです。農作物の流通と聞いて、まず頭に浮かぶのは「農協」の存在。正式名称は「農業協同組合」ですが、収穫した作物は全部「農協」に出せば買い取ってくれるのか? 実際に「農協」に加入していた先輩に直接聞いてみましょう! 鹿児島で大規模のキャベツ農園「大吉園芸」を経営されている育成塾・塾生/大吉枝美さんです!(*向かって右から2番目。キャベツを持っている方です)
(大吉さんが就農された経緯もとても面白いので、こちらの記事も読んでみてくださいね)
■支払いも待ってくれる「農協」という存在
農女新聞
農協に入っていれば、収穫した作物はすべて買い取ってもらえるのですか?
大吉
はい。私たち農家は作物をA品、B品などとランク分けしてダンボールに詰め、「選果場」(集出荷のための施設)に持っていくのですが…そこで農協がすべて買い取ってくれるんですよ。
農女新聞
そこから市場を通じて、お店やスーパーマーケットなどに並ぶわけですね。他の販売ルートもあるんですか?
大吉
農協ではなく民間の施設だったのですが、「道の駅」のような直売所を利用していました。ウチの近くには「お母さんの店」という拠点があったんですね。ここは店番をしてくださるおばあちゃんに10%の手数料を払えば、少量の作物でも販売することができました。就農したばかりのころ、いわゆる“日銭”を得るためには結構助けられましたよ。
農女新聞
なるほどー。皆さん、作物の量などによって「農協」と「農協以外のルート」を使い分けることもできたと。農協とは販売以外のお付き合いもあるのですか?
大吉
私が加入していたころは、苗や種、肥料や農薬などはすべて農協から買っていました。畑をやっていると収入に波があるので、支払いを待ってくれたりもするんですよ。そんなときに「ああ、自分たちは守られてるなぁ」と実感しましたね。もちろん利子はちゃんと付きますが(笑)
農女新聞
フォロー体制もばっちりなんですね。……とすると、加入料もそれなりのお値段がするんじゃないですか?(なんだか通販番組みたい・笑)
大吉
いえいえ。加入するときに必要な出資金も約1万円で一度だけでしたよ。あとは、農協と一口に言っても、扱っている作物によって部が分かれていて私は「かぼちゃ部会」と「葉茎菜(ようけいさい)部会」に入っていましたがそちらの方は、1部会につき年間3000円ぐらいでした。
■それは、会社員が脱サラする感覚に似ている
農女新聞
大吉さんが農協に加入していたのは2年間と伺っていますが、どうして「守られていた」場所から飛び出そうと思ったのですか?
大吉
農協を通していると、自分のところの作物が実際いくらで売れたかを知ることができないんですよ。お店に300円で並んだ野菜も、500円で並んだ野菜も平均400円で売れた計算になって各農家にお金が支払われるんです。私は一生懸命にキャベツや枝豆栽培に向き合ってきたので、もっと自分たちが頑張った成果を感じたくなったからでしょうね。
農女新聞
あ、それって少し分かる気がします。例えば会社員の方が、自分の力を試したくて独立するような……
大吉
そうそう、確かにそんな感じですね。就農したてのときは、とても農協に助けられましたが「自立したい」と感じたことが何より大きかったように思います。
■個人でお客さんを開拓するには?
でも不安なのは、やっぱりお客さんの開拓。それに「農業で独立したら3年は食えないと思え」なんてウワサも聞きますし……(怖)いったい皆さんはどうしているのでしょう? そこで前回の記事にも登場してくださった農女の皆さんが、それぞれのやり方――「マイ営業法」を教えてくださいましたよ。
【パワフル派/森安かんなさんの場合】
中央卸売市場、ネット通販、SNSなどをフル活用!
農業は世の中のためになる!と燃えていた森安かんなさんが、ターゲットにしたのは、なんと最初から流通の大舞台「中央卸売市場」。通常、出荷数が少ない個人は相手にしてもらえないことが多いそうですが「収穫後に日持ちのしない“軟弱野菜”なら大丈夫!」という研修先でのアドバイスを受けて、思い切って作目を小松菜にしぼったそうです。
森安
最初はなかなか値段が付かなかったのですが、早朝のセリ前に小松菜を持っていったり、仲卸さんと情報交換したりしていくなかで認められたのか、契約栽培先ができました。市場に勤めていた夫の友人による口添えも、効果が大きかったですね
と森安さん。さらに、いい商品を作っていれば他から声がかかることもあり、今では学校の給食用に納めたりもしているそうです。
森安
実は、お米もやっていて、こちらはネット販売です。初年はほとんど友人に配って終わったものの、翌年からはお客さんが少しづつ増えて……。現在は集客を考えて“楽天”へ出店したり、リピーター向けには自社のホームページを強化したりして、戦略を練っています。ただ、忙しくて自社ページのほうがなかなか手つかずなのが反省点です(笑)
【パワフル派/早坂幸野華さんの場合】
また、ハーブ農家をされている育成塾・塾生/早坂幸野華さんは実に様々なチャネルを駆使して、経営を成り立たせていらっしゃいます。
早坂
ハーブやその苗、加工品を販売したり……
早坂
ハーブの魅力を広めるために、インストラクターとして講座を開いたり……えっと、たくさんあるので簡単にまとめますね。
( )内が営業の方法です。
・ハーブ苗をハーブ専門店に出荷(インストラクター関連の繋がりで)
・ハーブ教室の教材として苗を販売(講座の生徒さん向けに、受講料に含む形で)
・道の駅や直売所(出荷組合に登録して)
・手作り品の委託販売ショップ(知人からの紹介や個人的な繋がりで)
・農園での直売(お客さんが興味を持ってくれるよう、SNSやブログなどで)
今後は、フレッシュ・ハーブを使う料理店向けの契約栽培やネットショップでの通販を考えているそうです。
当たり前のことですが、農業だって1つのビジネス。頭をフル回転させて活路を切り開くことが、とっても大切なんですね! 農業で独立=起業であり、皆さん一人ひとりが「社長」であるというプロ意識を強く感じます!
【ゆるやか派】
知人ネットワークでの口コミで縁を結ぶ
一方、長野県で少量多品目の野菜栽培を行っている真木美里さんは、「個人宅への宅配」と「レストランへの出荷」という二本柱で生計を立てていらっしゃいます。お客さんの開拓方法については意外な一言が……「ホームページは作っていません(きっぱり)」。ホームページって、営業活動とは切っても切れない間柄じゃないんですか?
その心はいかに……
「うちは自然の成り行きにしたがって作物を栽培しているので、野菜がたくさん取れるときとそうでないときがあります。だからホームページで募集してしまうと、発注の増減に作付けが対応できなくなってしまうんですよね。“畑に合わせる”というやり方に対して、“それでもいいよ”とのんびり待ってくれるお客さんと うまくお付き合いしていけたらと思っています。そういう真木さんだからこそ、人の縁はとても大事にされています。現在取引されている個人のお客さんやレストランも、ほとんどが知人からの紹介だそう。それでも何とか独立1年目から、(細々ではあったそうですが)食べていけるようになっていたとか。
■機械施設費用500万円を4万円で済ませる方法
全国新規就農相談センターで発行されている『就農案内読本』によると就農1年目で機械施設にかかる費用は、平均で500万円。そんな中、真木さんたちが初年に使ったのはたったの4万円だったそう。
真木
雑草を刈るための『刈払機』(上写真)だけは、どうしても必要だったので買いました。あとはありがたいことに、近所の農家さんが機械や道具をほとんど貸してくれたんです。
私たちが女性2人で行っているのを心配して、男性の皆さんが、力仕事も手伝ってくださいました。この点は、女性ってお得だなぁと驚きましたね(笑)
いえいえ、それはきっと「女性だから」だけではなくお2人の誠実さや人徳の賜物だと思いますよ!
【営業ゼロ派】
いいものを作っていれば、おのずと販路は広がる!
そしてそして、「営業? そんなことしたことありません」というのが冒頭でお話を伺った大吉さん! 大吉さんが営業活動をしていないとすると……、いったい誰が?? 実はキーマンとなっていたのは、就農当時、大吉さんのキャベツに怒涛のダメ出しをしていた荷受人のSさんでした。(Sさんとの熱血な日々は、こちらの記事で読めます)
大吉
最初は、Sさんの指摘を必死になって改善していったのですが…ようやく美しくて質のいいキャベツになってきたなぁという頃、びっくりすることがおきました。Sさんが突然、畑にスーパーマーケットのバイヤーさんを連れてきたんですよ。バイヤーさんが、その場でキャベツをちぎって試食するんですが、あのときはそりゃもう、うれしいやら緊張するやらで本当にドキドキしました
そこから、みるみるうちに「大吉園芸」の取引先は広がって……すっかり大吉さんとその畑に惚れ込んでしまったSさんは、キャベツ担当から変わった今でも、こちらの枝豆や他の作物にたくさんのバイヤーさんを連れてきてくれるそうです。
(大吉さんご夫婦と、荷受人のSさん。サングラスの下には、厳しくありながらも温かい眼差しがありました)
■小さなシールをたどって届いた、喜びの声
最後に、小松菜農女・森安さんのこんなお話をご紹介します。
森安
私たちは、直接お客さまに接する機会がないのですが、出荷用の袋に貼っているシール電話番号を見て、わざわざ電話をくださる方がいらっしゃるんです。“子どもが小松菜を食べるようになりました!”とか“気に入っていつも買ってます”とか…うれしそうな声をいただくと、“農業を仕事にして本当によかったぁ”と思います。
そして、早坂さんと大吉さんは「他の誰でもなく、あなたが作った物がほしい」と言われることが一番うれしいとのことだと語っていらっしゃいました。「輝く農女」への道にはマニュアルもない、答えもない。でも、それを大地と共に歩みながら、「自分の生き方」としてゼロから創り上げていくことができる――。その道のりこそが、農業を生業にすることの醍醐味かもしれませんね。
3回に渡りお届けしてきた連載『農家になろう!』でしたが、これを機に“農家への第一歩”を踏み出す方がいらしたら、なんてうれしいことでしょう。その際は是非、農女新聞にお知らせくださいね! 楽しみにお待ちしております!!