育成塾講師・金子和夫/地域は○○を求めている
2015.03.25
■いま地域コミュニティが求めているのは…○○である!
コミュニティ・デザイン研修担当/金子和夫事務所株式会社/金子和夫さん
今回のインタビューは…育成塾のコミュニティ・デザイン研修を担当されている金子先生。穏やかな語り口調で、塾生たちに、地域コミュニティを作る方法を導く姿は、まさに育成塾のモーゼ(記者が勝手に呼んでいます)!そんな金子先生から塾生達へのメッセージには、日本の地域活性に繋がるたくさんのヒントが詰まっていました!
■見た目は今風だけど…
農女新聞
まずは…この女性リーダー育成塾が始まったときの、塾生たちの印象を教えてください。
金子
そうですね~…僕は、地域ブランドのコンサルタントとして、コンテンツと同時にイメージというものを大事に考えているんですけど、そのイメージという観点から見て最初に感じたのは、皆さん色白で、キレイで、明るいなあという感じがしました。
農女新聞
確かに皆さん、ファッションなどもオシャレな方が多くて、パッと見た感じでは農家の方とは思いませんよね。
金子
僕は、愛知県の開拓農家のせがれなんですが、昭和30年代ごろは農家というものは厳しい環境で、都会に出たいと思う人も多かったですが、今の農家の方々に実際お会いすると、センスもあるし、もしかしたら都会でヘトヘトに疲れてしまっている人より輝いているかもしれないですね。
農女新聞
そこはいい意味で意外な第一印象だったんですね。そんななか、講義を重ねる中で、塾生達に感じたことは?
金子
そうですね…いろいろ話してみて思ったのは、見た目は今風になってるんだけども、農家としての意識の部分は、昔とあまり変わってないと感じました。それは、生産者発想が強くて、消費者目線の意識が弱いところなどです。作ることももちろん大事ですが、流通チャネルがどうなっているとか、売り場の状態がどうなっているとか、そこへの意識はあまり進んでいないように感じました。
農女新聞
なるほど。販売に関しては農協頼みというようなことでしょうか。そんななか金子先生は授業ではどんなことを伝えようと意識しましたか?
金子
農業を発展させていくために、コミュニティデザインというものが、どういう役割をはたしていくかを伝えることを意識しました。既に塾生の中には、自分のコミュニティをちゃんと持っている方もいましたが、まだ多くの方が、男性を支える立場に徹している印象がありました。なので、地域リーダーとして、農村をグイグイと引っ張っていく人を育てたいと思いましたね。
■地域の価値を上げるためにファンを作る!
農女新聞
具体的に、授業はどういう風に展開したのですか?
金子
塾生たちの間で、「新しいプロダクトモデルを作ってBtoBで勝負したい人」「地域に溶け込んで農業をやっていきたい人」など、それぞれやりたいことが浮き出てきたので、僕は、「地域コミュニティ」を重視する人達を応援する方に回りました。
農女新聞
「地域コミュニティ」が上手く機能するとは、どんな姿を言うんですか?
金子
理想的な地域モデルの1つとしては…その地域に根付いた農業と、そこでの暮らしの持続的な発展を目指して、農家、市民、行政を巻き込むようなプラットフォームが必要です。本来は農協がプラットフォームを担っていることになっているんですけど、現在は農協は金融と生産・流通に特化した状態になっています。
農女新聞
地域全体の暮らしというところまではカバーしてないんですね。
金子
そうですね。一応、生活に根付いたところとしては、行政の農業改良普及員という方達がいて、昭和50年頃は女性農家の自立を促進する取組もされてたんですけど、そこに若い農家が加わらないまま高齢化してしまって、上手く行ってなかったところがあります。僕は、そこの部分を重視して、生産も加工も交流も…みんなで地域の価値を上げることを目指して行ければと思っています。
農女新聞
地域の価値ってどうすれば上がるのですか?
金子
地域の野菜やブランドを買ってくれる“ファン”を作ることだと思います。今の時代、自給自足だけで地域が成り立つのは難しいので、いかに地域以外のコミュニティと結びつくかを考えなければなりません。その地域の暮らし、環境、食文化をいいなと思ってくれる“ファン”を多く作れれば、都市と農村の継続的な交流にも繋がると思います。
農女新聞
確かにそういった意識を持った農家の方が全国に広がれば、日本全体の地域と都市が元気になりそうですね。
金子
そうですね。今、経済のグローバル化が進んでいますが、グローバルが際立てば、その分ローカルの方も際立ってくると思うんです。しかもそれは断絶された関係ではなく、むしろ密接に繋がっている。グローバルって聞くと、世界中に散っていくイメージですが、散った先にあるのはローカルなんですよね。結局そこの地域について考えなければいけないんです。
■4者4様 地域の事情
農女新聞
なるほど。そんななか、金子先生のグループでは、どんな事例がありましたか?
金子
そうですね。全員で4人いたのですが、1人目の方は、中山間地域の中で、既にコミュニティづくりに取り組んでいました。本来、農村地域には、よそ者を寄せ付けにくい強固なコミュニティがある場合も多いのですが、その地域は、高齢化などでそのコミュニティがいい意味で崩壊してきている。おかげで元々住んでいる人達と、外から入ってくる若者のコラボレーションが始まっているようでした。今後はその方がリーダーとして、外から入ってくる若者と協働して地域を上手く導く存在になって欲しいですね。
農女新聞
コミュニティって、そんなキッカケで活性化することもあるんですね。
金子
そうですね。それで2人目の方は、地域の中で自分らしく生きたいという自己実現を重視する方でした。芋を自分で作って、それを焼き芋として売りたいというような…生産と加工も自分でやりたいということでした。このアイデアを活かすには、移動販売車で高級マンション付近で売ったりなど、ターゲットを絞って、個人としてブランディングするような工夫が必要だと思いました。
農女新聞
個人としてやっていくにも、ブランディングは重要なんですね。
金子
そうですね。で3人目の方なんですが、この方は開拓村に住んでいる方でした。この土地は、戦後に入植者が入ってできた村で、生産の規模は大きいのですが、文化や歴史がないところでした。なので…例えば、お祭りやイベントなどの文化を作っていくことで、都市との交流のキッカケを作るのがいいのではと思いました。
農女新聞
地域が求めてるものを、都市との交流に結びつけるわけなんですね。
金子
そうです。そして最後の方は、都市近郊の地域に住んでいる方でした。彼女の場合は、農地を守っていくためには、都市にファンを作って繋がりを作ることが重要だと思いました。その一歩として、大学や企業などとコラボするのもおもしろいなと思いました。とにかく地域の数だけ地域モデルがありましたね(笑)。
農女新聞
そうなんですね。ただ…いくら地域ブランドを作るとはいえ、地域全体を1つにするのってけっこう難しそうですよね?どんなところがポイントになりますか?
金子
例えば、道の駅というコミュニティを作るとしたら、動機づけとしては「嬉しい」と「良い小銭稼ぎになる」というところがポイントだと思います。地域のおじいちゃん、おばあちゃんとしては、野菜を買ってくれたお客さんに「あの野菜おいしかったです」と直接言ってもらえたら嬉しいですし、それでいて100円の袋を100袋売ったら1万円という小遣いになる。人同士の触れ合いと、ちょっとした利益、これは良い動機になると思います。
■いまの時代が求めるリーダー像はコーディネーター型
農女新聞
なるほど。そんな具体的な事例を学んできた塾生達ですが、卒業後、地域リーダーを目指す上では、どんなところを意識して欲しいですか?
金子
1980年代、1990年代のリーダー像は「俺に付いてこい」ってタイプが多かったです。しかし、今、求められてるリーダー像は「コーディネータータイプ」だと思います。1人1人の意見をちゃんと聞くことで、その総和がビジョンを形成する。地方では、それぞれの人が持ってる想いを調整する力が重要だと思います。
農女新聞
卒業後の塾生達にはぜひそこを期待したいですね。3月には育成塾の締めくくりとしてFOODEXがありますが、そこではどんなこと意識して欲しいですか?
金子
FOODEX自体は、BtoBに目的を置いたものですが、地域モデルを考える上で、いろいろな展示を見て、市場調査をする場にして欲しいですね。“田舎っていいでしょ”ってだけじゃダメで、それをどういう言い方、パッケージでアピールすることが大事ですから。
農女新聞
最後に、卒業する塾生のみなさんにメッセージをお願いします!
金子
魅力あるパッケージと良いコミュニケーションを考えていってほしいです。地域の価値を高めることで都市との交流が進み発展していく。そのコーディネーターとして、みんなが集まれる場をぜひ作って欲しいです。
農女新聞
ありがとうございます!
今求められているのが、ただ強いリーダーではなく、みんなの意見を調整しながら気配りができるコーディネート型リーダーという点は、今後女性リーダーが増えることを後押ししてくれそうですね。卒業後、それぞれの土地で、塾生達によって作られたコミュニティが日本全体を盛り上げていく姿が楽しみです!