女性農業コミュニティーリーダー塾 実践編
東京・大阪合同研修in愛媛レポート(後編)
人口300人の集落が全国から注目を集める理由
合同研修in 愛媛(後編)
2018.09
■全住民参加の地域づくり組織「遊子川もりあげ隊」
9月19日・20日は、愛媛県で一泊二日の合同研修! コミュニティづくりの先輩たちにお会いして、そこで気づいたことを自らの行動に活かすことが目的です。
2日目に訪れたのは、西条市にある「遊子川(ゆすかわ)地区」。高知県との県境にある山村地域で、人口は約300人。少子高齢化のため集落機能が低下し、耕作放棄地も増加。伝統文化の継承も危ぶまれているという、いわゆる「限界集落」です。
まさに多くの地方が現在進行形で直面している問題ですが、その難題に「楽しく」立ち向かうかのごとく、トマトの6次産業化で全国から注目を集めている企業組合があります。
その名も「遊子川ザ・リコピンズ」!
リコピンと言えば――。トマトの赤い色素でもあり、代表的な栄養素でもあります。リコピンズは、住民全員による地域づくり組織「遊子川もりあげ隊」(正式名称「遊子川地域活性化プロジェクトチーム」)の一部署として誕生し、特産「桃太郎トマト」を主軸とした加工品や、交流拠点である農家レストラン「食堂ゆすかわ」の運営などを行ってきました。
遊子川もりあげ隊の取り組みは、平成28年度には年間約4000人の交流人口を獲得。地域一丸となった取り組みが評価されて、同年度の「ふるさとづくり大賞 団体表彰(総務大臣賞)」を受賞。また、「第69回全国優良公民館賞表彰 最優秀館受賞(文部科学大臣賞)」などの功績もあり、その功績が住民の活気とやりがいにも繋がっています。
今日は、その公民館賞を受賞した遊子川公民館でお話を伺います。
■危機感を共有するために○○○を使いました!
そしてこの方が、リコピンズ代表理事の辻本京子さん!
辻本さんは、平成14年に夫と共に奈良県からIターン移住。もともと大好きだったトマトを栽培する農家になりました。当時の遊子川では、トマトの受粉にホルモン剤を使うのが主流だったそうですが、マルハナバチを使った自然受粉でつくりたかった辻本さん。
「農業指導委員などにやり方を聞いて聞いて、聞きまくって、どうにか実現することができました。食の安心・安全にもこだわりたかったので、有機肥料も取り入れました」。農業の経験もない中で、このように商品力や収量を上げていったそう。
その過程で、辻本さんにコミュニティづくりの転機が。「過疎化」への危機感がきっかけです。
頷きながら聞き入る塾生のみなさん。共通する想いがありそうです。
辻本さんは言います。「地域のみなさんには、言葉で伝えてもなかなかイメージがわかないと思いました。なので、専門家にお願いして『遊子川の将来の姿』を数値で出してもらいました。それをみんなで見て、考える場を設けたんです」
結果、地域のみんなが限界集落の抱える課題を共有することができ、平成22年に住民全員参加の地域づくり組織「遊子川もりあげ隊」が発足します。公民館に頻繁に集まっては、話し合いを重ねる日々がはじまりました。
「感情的に『言葉』で伝えるのではなく、『数値やデータ』で示したほうが説得できる」。これは、金子先生が塾生のみなさんに常々伝えていることでもありますね。この日のスライドにも、客観的なデータや伝わりやすいキャッチコピー、写真や図などが散りばめられています。
参考にするためにカメラで撮影する方も。ぜひ今後に活かしてくださいね!
■トマトの加工、ジュースは競合が多い!…では、どうする?
さて、住民全員参加の「遊子川もりあげ隊」から生まれた、トマト農家の集団「リコピンズ」ですが……、核となったのは、「規格外のトマトを加工品として活かしたい!」という辻本さんの強い想いでした。
仲間に話したところ、「加工品の開発なら、他の農家さんとも連携した方がいいよね」ということで、もりあげ隊の「産業部」という部署にいた女性農家さんたちと開発をはじめたそうです。まず思いついたのは「トマトジュース」。しかし、競合はたくさんあり「もう遅い」という指摘も。
じゃあどうすれば? と、試行錯誤の末に思いついたのが「トマトのポン酢」! 遊子川地区ではユズの生産も多く、ポン酢として加工していたことにヒントを得たそうです。その酢づくりのノウハウも、立派な地域資源ですね。
行政から専門家を呼んでもらい、加工やブランドづくりの勉強もして――。開発から3年かかって最初の商品が完成!
これを皮切りに、桃太郎トマトにこだわったトマトケチャップや、青トマトをつかった粕漬など、多くのブランド商品を輩出。さらにこれらの特産をつかった農家レストランや、地域PRの映画まで活動が広がっていきました。
■“よそ者”の強みは、しがらみがなく自由なこと
この日も初日と同じく、塾生から辻本さんへの質問を金子先生が整理してインタビューしました。
地域も移住者に寛容で、夫の理解もあったという辻本さんですが「加工品の開発などについては、“よそ者”が余計なことをしているという反応はありませんでしたか?」という切実な質問に……
「地域から発生した『もりあげ隊』の特産品としてだったので、“よそ者が”という反応はありませんでした。むしろ、『外から来た人しかやれない』とは言われました。しがらみがないので、何でも言えちゃうんですよね(笑)そこは強みとして活かさせていただきました」
インタビュー終了後。金子先生が辻本さんのアクションについて、整理していきます。
・最初のきっかけは「トマト農家として、自立していきたい」という強い想いがあったこと
・公民館というプラットフォームを活かせたこと
・最初は「考える会」という広い間口で人が集まり、そこから細分化した部会がはじまったということ
・辻本さんがいつも「結果」を出してくれるので、行政も安心して協力することができた
そして、コミュニティづくりの成果としては「決して売り上げが多いというわけではありません。しかし、皆さんの取り組みが、ふるさとづくり大賞や公民館賞を受賞したことで、存在感のある活動として影響を与えているということでしょう」と、収益以外の点についても目を向けることも大切だと言います。
■2人の先輩女性リーダーから学んだことは?
初日にお話しを伺ったのは、直売農家の集団を引っ張っていった野田さん、2日目は、トマトの六次産業化で地域を盛り上げている辻本さん。お二人はリーダーとして、どんなキャラクターを持っていたのでしょう。
深代先生が、Discの分類に当てはめて分析。「自分はどんなタイプのリーダーになれるのか」について改めて考えさせてくれました。
この2日間の気づきをグループ内で共有する時間には……「前例のない取り組みにも協力的な行政がある」ということに、刺激を受けた方も多かった様子。「行政をもっと身近な存在として、相談すればよかったのかも」と、自分の行動を振りかえる声も上がっていました。
それを聞いていた金子先生が、なにやら思いついた様子。林先生と熱心に話し込んでいます。
「みなさん『行政』と一緒くたに捉えてしまいがちですが、たとえば、規模の大きい街は『外』を向いていることが多いし、小さな町では『内』の動きに敏感。向いている方向が違うんですよね。だから、その町の規模によって『行政との付き合い方』も違うんです。次の研修では、そんなこともやったほうがいいかもしれませんね」
視察や塾生たちの反応を見ながら、研修のやり方も変えていく。そんな生きたカリキュラムが「女性農業コミュニティリーダー塾」の魅力なのかもしれません。
■出会いに感謝! お疲れさまでした!!
最後はリコピンズのみなさんが、心のこもったトマト料理のフルコースで、おもてなしをしてくださいました!
お皿は、メンバー各自の家から持ち寄ったものだとか。手作りの料理に、さらに「作り手」の温もりを感じますね。
中には「鶏と野菜のトマトポン酢煮」など、食堂ゆすかわでの人気メニューも。リコピンズのみなさんが、丁寧にレシピまで説明してくださいます。
各テーブルに、お一人ずつリコピンズのメンバーが入ってくださり、講演では聞けなかったお話しも伺えました。
辻本さんと名刺交換しつつ、あふれる想いと質問が止まらない塾生の皆さん。この二日間は、東京と大阪の会場のメンバーが初顔合わせだったこともあり、かなり人脈のネットワークが増えたのではないでしょうか?
食堂ゆすかわで、トマトの加工品を購入。すいぶんたくさんお買いになりましたねぇ~。「これで地域ブランドの研究もするつもりですが……、実は地元で待っている仲間に『モチベーションのおすそわけ』として配りたいんです!」。常に仲間のことを考え、リーダーとしての心がけを忘れない皆さんでした。
最後は、決意をあらたに記念撮影!
ここでの収穫をそれぞれの地域に持ち帰り、きっと来月は、一回り大きくなったみなさんにお会いできることでしょう。楽しみです!