女性農業コミュニティーリーダー塾 実践編
大阪会場 第5回講義レポート
ビジョンを行動に変える「4枚の模造紙」
2018.11.16
11月15日、16日に行われた大阪会場の第5回研修。じつは、今回が塾生にとって一番ハードな研修となったわけですが……みなさん知るよしもなく、いつも通り和やかな雰囲気でスタートです。
しかし序盤、金子和夫先生があえて檄を飛ばしたことで、空気がグッと引き締まります。
「ビジョンを実現するためには、そこにたどりつくための戦略や具体的な行動プランが必要不可欠です。でも、みなさんの会話を聞いていると、『男性が主導権を譲りたがらない』、『自治体にかけあっても成果が見えない』など、ネガティブな課題にとらわれて足踏みしている印象を受けます。それじゃあ、みなさんも辛いし、会議も楽しくなりませんよね。仲間も去りますよ。結果、残るのはあなただけ……。それは避けたいですよね??」
でも、今回の講義でみっちり「アクションプラン」をつくる作業プロセスを学べば大丈夫! と力強く語る金子先生。
「これが完成すると、みなさんが今もやもやとしている部分がしっかり見えてきますよ。気持ちもスッキリして、あとは行動するしかなくなるはずです」
アクションプランは、「輝く未来」と「厳しい現実」のギャップを埋めるための「具体的な行動計画」。そこに数値で計れる評価基準「KPI(key performance indicator)」を設定することで、計画の振り返りや改善が客観的に行えるようになります。
本来は、利害関係者を集めた全5回のワークショップを開催し、会議を通して完成させていくもの。それを2日間でやり遂げます! いわば、地元に戻って本番を迎える前の「ロールプレイング」です。
4、5人のグループごとに、模造紙が配られます。
机には、色とりどりの大きな付箋や赤いシール、カラーマジックまで。いったい何をするのでしょう?
はい! これがビジョンから「戦略」と「アクションプラン」をつくるためのボードです。今回は模造紙を使って、計4枚あります。
【ワークショップ全5回のテーマ】
1回目 コミュニティの現状を把握する
2回目 問題の構造を把握する(模造紙1)
3回目 ビジョンと目標を決める(模造紙2)
4回目 アイデアを出して評価する(模造紙3)
5回目 アクションプランとしてまとめる(模造紙4)
各模造紙の使い方は、これから金子先生が解説してくださいます!
価格が3分の1まで下落した「乾シイタケ」の復活劇
以前に金子先生がコンサルタントを行った、愛媛県の“乾(干し)シイタケの地域育成事業”を例に挙げて約40分間、「戦略とアクションプランづくり」の実演がはじまりました。まずは前提として、シイタケ農家さんが抱えた課題を共有します。
「もともと愛媛県は、原木栽培の乾シイタケが全国4位の地域でした。危機が訪れたのは、2011年の東日本大震災。放射性物質の問題で、出荷停止になったはずの県外産シイタケが混ざっており、基準値を超えた放射線が計測されてしまいます。乾シイタケには県産表示義務がなく、他県産ものと混ぜて販売されるのが一般的でした。そのため、乾シイタケの信頼は一気に失墜、価格が3分の1にまで下落してしまったのです。産地に激震が走りました」
そこで、とある市の森林組合協議会が、アクションプランを作って危機に立ち向かいます。
どうしたら、信頼を取り戻してもっと売れるようになるのか? 会議で話し合うと、たくさんの課題が出てきました。
・乾シイタケを戻して使う主婦が減った
・売り場が縮小している
・愛媛県=シイタケというイメージが消費者にない
・県産表示義務がなく、他県産と混ぜて流通している
・保存が効くため、卸業者が価格調整できてしまう
これらをどう解決したのでしょう?
ネガティブな課題をアイデアに変換して、たくさんの戦略を立てたのです。
1 手軽に調理できる加工品をつくる!
手軽に出汁がとれる粉末やスープなどの開発。
2 シイタケの価値を上げる!
バーベキュー用に、インパクトのある超特大シイタケを販売。愛媛県産の商品をブランド化し、
県単体の商品として販売する。地域商社をつくるなど。
3 若手の女性をメンバーに加える!
ヤル気があって客観的視点もある、Uターンの20代女性を採用。
ちなみに、若手の女性メンバーとは、今の塾生たちの先輩ともいえる起業塾の塾生さんでした。アクションプランをつくり、県内の道の駅や地元の調味料会社、料理コンサルタントなどと協働し、マルシェなどでPR活動を行った結果、ついに2017年にはシイタケの卸価格が震災前のものに戻ったそうです!
さてここからは、メンバーたちがどのようにアクションプランを組み立てていったのかを追ってみましょう。各回の会議をスムーズに行うための手順や、役割分担についても説明がありました。
【模造紙1】 ビジョンの共有と課題の整理
ビジョンを実現するために「解決すべき課題」を整理します。
役割分担としては、提案者がファシリテーターを担当し、記録係も1人決めます。まず記録係は、模造紙に枠線を引いたりして、準備を整えます。ファシリテーターは楽しい会議を心がけつつ、時間内に作業を終えることを意識していきます。
大まかな手順としては…
①ファシリテーターが上部の枠にビジョンを明記し、参加者に概要を共有する。
②参加者は、「ビジョン実現のために解決すべき課題」を黄色の付箋に1人5枚書く
③ファシリテーターは付箋を読み上げながら、それぞれの「分野分け」を想定しつつ、
中央の「課題カード」の欄に貼っていく。
④付箋の「分野」の名称を、記録係に赤い付箋に書いてもらい左の欄に貼る。
⑤参加者は、ビジョンを実現するための重要度が高いと思う分野に、赤いシールを貼って「投票」する。
シールは1人5枚が目安。
先ほどの「乾シイタケ」のワークショップでは、
【課題】
・乾シイタケの使い方が分からない若い消費者がいる
・中国産のシイタケが国産の2倍(外食はほとんど中国産)
・しかし、消費者は安心安全を求めるようになってきている
【分野】
「競合品」「売り先」「加工品」「消費者ニーズの変化」などがあったそうです。
手順を把握することに最初は戸惑った塾生たちですが、やり始めるとアレコレ意見が浮かんで止まりません。
ついつい意見交換の会話が白熱して、作業時間が押してしまいがちになりますが……「書くときは黙ってスピーディーに書く」などメリハリをつけることはとても重要だと金子先生。確かに、実際ワークショップを開く場合、参加者は貴重な時間を割いて集まっているわけですし、話が得意でない人含めて多くの意見を収集することが目的ですものね。
「シイタケ農家だけで集まったら『おいしいのに売れない』という意見ばかりになったでしょう」と、消費者や学生などといった「多様な利害関係者」を巻き込む重要性も説く金子先生。
また、周囲の出方を探ってしまう挙手式より、1人ずつシールを貼る形式の方が本音を反映しやすいそうです。
【模造紙2】
コンセプトづくりと課題の書き替え、KPIの整理
コツがわかってきたところで、駆け足で先に進みましょう!
2枚目では、ビジョンをわかりやすく訴求する「コンセプト」を設定し、1枚目で出た課題を進化させ、KPIを設定します。
大まかな手順としては…
①模造紙1の投票で重要度の高かった順に「分野」の赤い付箋を並び替え、左側の「課題の分野」に
貼り移す。
②模造紙1で黄色い付箋に書いた「課題」の重複や矛盾を整理し、「~する」という能動的な言葉に
書き替えて貼る。「生産者が高齢化」(模造紙1)→「生産者グループを法人化し、圃場を集約する」
(模造紙2)というように、「〇〇だからダメ」から「それを解決するために〇〇する」という表現に
変換していきます。
③それぞれの分野にKPIを設定。
2枚目で掲げる「コンセプト」は、ワクワク感や見た人を納得させる力、当事者意識をかきたてる“観光パンフレット”のようなコピーを目指すとよいそうです。参加者全員で書いてみて、よいものを選びましょう。
【模造紙3】 戦略とアクションプランのアイデア出し
将来的に世に出るかもしれない貴重なアイデアだらけのため、具体的にお見せできないのが残念ですが、会場内では白熱した意見交換がなされ、バンバン付箋が飛び交っています。タイムリミットが迫っている中で、どれだけ完成度を上げられるか。真剣勝負!
3枚目の模造紙では、課題の「分野」を一歩進めて「戦略」に変えていきます。「課題」は、アクションプランの原案に!
大まかな手順としては…
①模造紙2で出た「課題の分野」の言葉を「~戦略」という表現に変え、青い付箋に書き替えて貼る。
KPIの付箋も一緒に移動。
乾シイタケのときに使った模造紙。語尾に「戦略」と付けるだけでも、計画の柱が立ち上がってくる気がしますね!
②参加者は、ビジョンを実現するための「アクションプランのアイデア」を緑色の付箋に書く。
「分野(戦略)」の枠をはみ出たアイデアも、思いついたらどんどん書いていきましょう。
③模造紙1のときと同じように、ファシリテーターは「分野(戦略)」を想定しながら、模造紙に
貼っていく。該当する「分野(戦略)」がない場合は、新たに青い付箋に書いてカテゴリをつくる。
④参加者全員で、ビジョンやコンセプトを実現するために重要度の高い「分野(戦略)」に、投票。
これで、ビジョン実現のために重要な「戦略」と「アクションプランのアイデア」を知ることができたというわけです。ここで1日目は終了です。
2日目は、【模造紙4】の「戦略とアクションプラン、KPIの整理」を行いました。
ここでは、模造紙3の「アクションプランのアイデア」から「取り組み可能な行動」を選び、必要に応じて書き替え、最終的なKPIを設定するものです。
徐々にレベルアップしていく講義も、残すところあと3回。来年の3月にみなさんがどんな成果を手にしているのか、楽しみにしていてくださいね!