女性農業コミュニティーリーダー塾 実践編
東京・大阪合同研修 後編レポート
荒れた森林を購入して、大きく稼ぐことに成功!
2019.1.29
東京・大阪合同合宿の2日目は、東京・丸の内へ移動し、特定非営利活動法人「えがおつなげて」の活動について学びます。講演者はこのお二人。「えがおつなげて」代表・曽根原久司さん(右)と、三菱地所株式会社 環境・CSR推進部CSRユニットの水田博子さん(左)。都市と農村の広域連携型コミュニティの在り方について、具体例を交えつつ、熱い講演を聞かせてくださったあと、塾生からの質問にしっかりと応えてくださいました!
「えがおつなげて」は、市民ネットワークによって「都市」と「地方」を結ぶ活動をしています。1995年、代表理事の曽根原さんが東京から山梨県北杜市の限界集落に移住。都市と地方を結ぶ社会モデルの形成を目指し、農業と林業を営みながら、個人として行っていた活動を引き継いで、2001年に設立したNPOです。
曽根原さんは移住した直後、耕作放棄地をたくさん借り、開墾して蘇らせました。開墾作業の楽しさにすっかりハマり、2ヘクタールもの土地を一人で開墾しました。同時に荒れた森林を買い、伐採した材木は、八ヶ岳の別荘地で薪ストーブのある家に販売。「薪割りをしたい」というニーズを掴み、8~9割が120cmの丸太のままで売れたそう。
「かなり儲かりましたね~」と笑いながら話す曽根原さん。活動の中で、日本に眠る耕作放棄地、森林などの「資源」に気づいたそうです。その可能性を試算したところ、なんと10兆円に! 実はもともと銀行コンサルタントだった曽根原さんは、眠っていた「宝」を次々と、お金へ変えていくことに…。
■地域活動で欠かせない2種類のコミュニティとは?
さて、えがおつなげてがミッションとして掲げるのは「都市と農村がつながる社会」という「テーマ型コミュニティ」を目指すこと。
地域活動する上で欠かせないコミュニティを、曽根原さんは2種類に分けて考えています。ひとつは、地域と密接に繋がる「地縁型コミュニティ」。もうひとつは、志をともにする人たちが地域を越えて繋がる「テーマ型コミュニティ」です。
曽根原さんが作ったテーマ型コミュニティの一例が、移住者だけの「組」。移住者が増え、地域の橋渡しを頼まれた曽根原さんは、移住してきた世帯をひとつずつ周り、新しい「組」を作りました。組を作ったことで、ゴミステーションもでき、用水路も分割され、地域との関係を作るうえでとても効果的だったといいます。
曽根原さんの活動が広がるにつれて、テーマ型コミュニティも広がっていきます。
活動が地域新聞などで取り上げられて広まり、今度は隣町の役場から、同じように限界集落を復活させてほしいと依頼が来たことで、「えがおつなげて」を設立。ここで、曽根原さんは作戦チェンジ。それまでは1人で活動してきたけれど、「プレイヤーをやめる」ことにし、開墾ボランティアを募集する作戦に変更します。
すると、主に首都圏から約1000人のボランティアが来て開墾に携わるようになり、結果としてそのうちの5人が移住することになります。これもテーマ型コミュニティを作り、地域の担い手を生み出したという結果です。
さらに、企業との橋渡し役もなり、広告代理店や食品メーカーの農業研修などを行い、新しいコミュニティが次々と生まれていくことになります。
■農山村では当たり前の作業が「価値ある体験」になる
その代表事例のひとつが、三菱地所と共同で行う「空と土プロジェクト」。三菱地所の環境・CSR推進部 CSRユニットの水田博子さんが登場し、パネルディスカッションです。2008年からはじまった「空と土プロジェクト」が目指すのは、都市と農山村が抱える課題を解決し、お互いが元気になる社会。
過疎化や高齢化で、農林業の担い手が減少している一方で、田植え、除草、稲刈りなど…農山村は当たり前のことが、都会の参加者にとっては価値のある「体験」として求められていることから、10年間で100回近い「体験ツアー」を行ってきました。農業体験だけでなく、地域貢献ツアーと称し、水路の清掃作業なども行っています。
さらに、開墾して再生した棚田では米作りをして、育てた米を使用した純米酒「丸の内」が誕生するほど、活動は広がりをみせています。
お二人の講義のあとは、塾生からの質問タイム! ここで、その質疑応答の詳細をいくつかご紹介しましょう!
■行政や既存組織と付き合うコツは「提案ベース」で動く!
Q:行政や既存組織との付き合い方は?
「提案ベースで動くことを心がけています。自分自身で情報を集め、陳情ではなく提案をすることが、行政に動いてもらうコツだと思います」(曽根原さん)
Q:農村での資源の見つけ方はどうするのですか?
「何よりまず、そこの資源の一番になる要素を探すこと。そして、物語(ストーリー)に繋がる要素を探します。その上で『妄想としての』ニーズを仮定し、掛け合わせて提案に繋げます」(曽根原さん)
「企業側としてもストーリーは重要視します。丸の内が売れているのは、開墾して米作りをした、都市と農村との共同作業というストーリーがあるから。ストーリーがあるかないかで、商品の価値は変わります。また、『一番の要素』という意味では、曽根原さんの活動は、誰もやったことがなかった活動です。それに一緒にチャレンジすることは、企業の価値としてプラスになります」(水田さん)
その他、多数の質問が飛び出し、また曽根原さん、水田さんの軽やかな語り口で、笑いの絶えない活発な講義になりました。
さて、曽根原さんが大切にしていることがあるといいます。それは事業のスタート段階で、
「楽しくて小さいモデルを作り、こっちの水は甘いよとアピールし続ける鉄則」。
夢やビジョンがあっても、いきなり関係者を巻き込むのは難しいのが現実。実際、「最初はどこから始めたらいいのか…」という悩みも、塾生から質問されました。その点、起因となるファクターを、「移住して開墾」という形でまずは自分で作った曽根原さん。その活動自体が、コミュニティづくりに悩む塾生への解答になりそうです。