「農業体験」の場をつくるには?
2020.11
私の想いを「みんなのビジョン」に拡大するには?
塾生のトレンドは「生産者と消費者がつながる場づくり」
「女性農業コミュニティリーダー塾」実践編、集合型クラスの第2回研修が、10月6日と7日に行われました。 今回も手指の消毒やソーシャルディスタンス、換気など、感染症予防に注意を払いながらスタートです!
6日は、金子和夫先生と林聖子先生による「身近な仲間を集めてビジョンをつくる」研修でした。 自分個人の想いを上手に仲間に伝えて、みんなで共有できるビジョンに成長させていく方法について、約6時間かけてみっちり学んでいきます。
まずは、事前の課題として塾生のみなさんに書いていただいた「コミュニティへのわたしの想い」について、金子先生が感想を述べました。
金子先生「みなさんの想いを見ていると、特産品開発で街を元気にしたい、 マルシェを開きたいなどさまざまな望みがありましたが、特に多かったのが『生産者と消費者がつながる農業体験の場づくり』についてです」
これらの目標を叶えるために、先人から学べることはないか? すでに成功している8つの事例を詳しく解説していきました。
行政とともに会社を設立して成功した先輩
例えばこちらは、人口の流出で村存続の危機を感じた村民が、行政とともに会社を設立した島根県の「株式会社吉田ふるさと村」。 スーパーマーケットの横で杵つき餅を販売したところ爆発的な人気を生んだり、たまごかけごはん専門店を経営したりと、農業を中心とした村おこしで成功しました。
「いいビジネスをしていれば、都会から若者も働きにやってきます」と、金子先生。 ただ周囲に「来てください」と呼びかけるのではなく、段階を追って人の集まる場をつくっていくことが重要なのですね。
農家の6次産業化を支援している徳島県の「とくしまマルシェ」 (過去記事参照=https://www.jma.or.jp/kagayaku-nj/news/report/article040.html)の解説では、塾生さんからの質問も飛び出しました。 大きい規模のマルシェになると、農業者と異業種が協働で事業を行うときに「意識のすれ違いを感じる」などの苦労があるようです。
金子先生は、「せっかくコンセプトがよくても、両者の連携が上手くいっていないと、魅力的なマルシェにならずにお客さんが遠のいてしまうことがあります」と、事前に関係者の意識を統一しておくことの重要性を説きます。
もっと大きな目で見れば、コミュニティに関わる全員が「同じビジョン」を共有して、足並みをそろえていくことが、コミュニティの成長には不可欠ということになります。
そんな目的を叶えてくれる第一歩となるのが……
身近な仲間とビジョンをつくる「ワークショップ」の実施です!
実現したいビジョンは5年先に設定しよう
コミュニティをつくる、拡大していくためには、次のサイクルを回していくことが重要だと学びました。
- 1 現状を把握する
- 2 身近な仲間を集めてビジョンをつくる
- 3 ビジョンを実現するアクションプランをつくる
- 4 アクションプランを実行する
- 5 実行したことを客観的に評価し、体制を見直す
今回の研修は、「2 身近な仲間を集めてビジョンをつくる」についての実践です。その方法として、カードを活用したワークショップを行います。
ビジョンとは、「将来的にこうなっていたい」という具体的な姿。 ワークショップの概要については、リモート型クラスの第2回研修レポートでも触れました。 ここで方法を簡単に説明すると、同じ課題や危機感を共有する身近な仲間を5人ほど集めて、5年程度で取り組めるビジョンをつくります。 10年先では見通しが立ちづらく、3年先では組織をつくって実行するには短すぎるので、5年をめどに「実現可能」なビジョンを立てるとよいそうです。
ワークショップ① 想いの実現に必要な「課題」を洗い出そう
さて、ここからは林先生にバトンタッチ。進め方の指南を受けながら、塾生のみなさんが2班に分かれて、実際にワークショップを行います。 本来は、みなさんが地元に帰ってから自分で仲間を集めて行いますが、今回は模擬体験として塾生同志が「身近な仲間」として参加します。
ワークショップは、2部制で行います。
第1部は「わたしの想いを実現するために、解決すべき課題の整理」(約90分)
第2部は「みんなでビジョンをつくる」(約90分)
現状の整理とこれから先の話、それを2段階に分けて行うことで、深い思考が生まれるそうです。
自分の想いを綴ったチラシで参加者を集め、当日は上の写真のように、会場にプログラムと時間割を掲示しておきます。 用意するのは、和やかに話しやすい会場や、互いの名前を呼びやすくする名札、模造紙を張るためのホワイトボードやカード、座が和らぐテーブルクロスやお茶菓子など――。 一見細かく思えますが、このセッティングが会議の成功を生むと言っても過言ではありません。
では早速、第1部を始めます!
2つの班には、あらかじめ自分の想いを提案する「発表者」が指名されています。班に分かれた後は、メンバーの中から進行役の「ファシリテーター」や「記録係」も新たに決めます。
発表者は、自分の想いをイメージ化した絵を描いています。
その絵を見せながら、「〇〇町に〇〇をつくりたい」など具体的な想いを参加者に説明します。参加者からは、アイデアに賛同する声や、現状を把握するための具体的な質問が飛び交いました。
発表者の想いを聞いた参加者は、黄色いカードに「想いを実現するために必要な課題」を書きます。 1案につき1枚、5枚のカードに記入します。ここは黙々と静かに個人作業。場にメリハリをつくることも、会議には必要です。
全員が5枚のカードを記入したら、記録係がそれを1枚ずつみんなの前で読み上げて、ビジョンを書いた模造紙に貼っていきます。 これにより、全員の意見を漏らさずに共有することができます。
出そろったカードは、似ている意見を近い場所に移動させてグループ化します。キーワードに色ペンで線を引いておくと、内容が把握しやすく作業がスムーズです。
そして、グループをひとくくりにするような「分野」の名前をピンク色のカードに書いて貼ります。このチームでは、分野として「地域生産」「コミュニティ」「加工品」などが出ました。
最後は「投票」。参加者が、優先して解決すべき課題だと思う「分野」のカードに、1人3枚づつ配られた赤いシールを貼っていきます。 つまり、赤いシールが多く貼られた分野は、優先度が高いということ。これで班の中での意見が明確化されました。
この結果を各班のファシリテーターがみんなに向けて発表し、第1部は終了です。
ワークショップ② するべき行動を決め「ビジョン」をつくろう
第2部では、まず第1部で絞り込まれた「優先すべき課題」を実際の行動に置き換えます。 そこから「キーワード」を拾い上げ、「ビジョン」に発展させていきます。最終的なビジョンは、具体的なキャッチコピーとして記入し、完成させます。
ワークショップの進め方は、第1部とほぼ同様です。
黄色いカードに、課題を解決するための行動を改めて記入し、分野ごとに新しい模造紙に貼っていきます。 「いつまでにどこで何をどのくらい行うなど、場所や数量、頻度などをできるだけ具体的に書くのが、ビジョンのイメージを広げるためのコツです」と金子先生。
やるべき行動が書き出せたら、そこから浮かんでくるキーワードを水色のカードに書き出して、模造紙の上部に貼っていきます。キーワードは「キラキラ」や「消費者の笑顔」などイメージ的なものでかまいません。
これらのキーワードなどを参考に、発表者は「ビジョン」としてのキャッチコピーを決定し、模造紙の上部に書き記します。 時間をかけて作り上げたビジョンなので、ちょっとした言葉の選定にも妥協できません。 たとえば「コミュニティに信頼感を持たせたい」と漢字で表記してみたり、地域の名物を言葉の比喩として加えてみたり……参加者も一緒に頭をひねりながら、一生懸命考えました。
そしてついに、キャッチフコピーが完成したときには――
参加者全員で、思わず拍手!!
時間となり、各班めでたくビジョンが決まったところで、結果を発表しました。
塾生からは「自分だけではビジョンを描けなかった。参加者のみなさんが自分のことのように真剣に考えてくれて、ヤル気が出た」との感想や、 「キャッチコピーをきちんと決めるのはプロジェクト推進の原動力になるんですね!」など感嘆の声が上がりました。
金子先生の講評では、「みんなが意見を出せば出すほど、ビジョンに思い入れがわきます。 また、参加者全員が椅子を離れて立ち上がっているワークショップは熱量の表れ。成功と言っていいでしょう」とのこと。 この感覚をぜひみなさん地元に持ち帰って、ワークショップを成功させてくださいね。