実行委員インタビュー 松村 秀一様

ジャパンホーム&
ビルディングショー2023
実行委員長
早稲田大学 研究院教授
松村 秀一 様
【住宅業界関係者へ向けた提言】消費者の生き方に寄り添うメーカーが住宅市場を牽引する
これからの住宅は「人の生き方」と切り離せなくなる
従来の住宅は「人生のステージ」と密接に結びついたものでした。結婚したから二つ以上の部屋のある家に住む、子どもが大きくなったから庭のある少し郊外の家にする……。
私たちは人生のステージの変化に合わせて、住宅を買ったり、替えたり、売ったりしてきました。
一つの会社に長く勤める前提があって、自分がどういう階層に属しているか、周りがどんな行動をしているかも影響していました。
ところが、今はそうじゃない動きになってきています。地方で自然と親しんで子どもを育てる、どんどん仕事や職業を変える、老後は好きなものに囲まれて暮らす。
自分がどんなふうに生きたいか、ということと、住まいの選択が、従来よりも直接的な関係を持つようになりました。

コロナ禍、転職、長寿。3つのキーワードをとらえる
生き方と住まいの変化を考えるにあたり、3つのキーワードがあります。
一つは「コロナ禍」。パンデミックを経て、私たちはどこで働き、どこに住むかを、かなり自由に選択できるようになりました。
オンラインやリモートで何でも済むしくみができました。そして、それは想像していたよりも簡単にできると多くの人が感じました。
二つめは「転職」。私は今66歳ですが、私の世代までは一旦就職してしまうと、それ以降、働き方について考える必要はありませんでした。
終身雇用のもと、40年間働くとすると、その間は生き方を考える機会はなく、その必要もない。そもそも生き方を考えるという習慣がなかったのです。
それが今は、転職が当たり前の時代です。先日も、私の研究室の45歳くらいのOBと話をしていたら、転職サイトに登録しているというのです。
50歳になったら転職が難しくなるから、今のうちにしたいと言います。聞けば、彼の同級生の多くは転職しています。

いったん就職したら40年間生き方を考えなかった社会と、みんなが常に働き方の選択肢を考えている社会とでは、全く違います。
三つめは「長寿」。私たちは長生きするようになりました。
60歳か65歳になると、それまで勤めていた会社を辞めます。しかし、その先も人生はしばらく続きます。退職のあと、90歳くらいまでの生き方を考えなければいけません。どこに住むか、誰の世話になるか、誰の世話にならないか。
何をして稼いで、年金以外の稼ぎをどう見つけていくか。あるいは、せっかく時間ができたのだから、何をしてエンジョイしていくか。
人生について考えることがいっぱい出てきたわけです。そうやって人生について考えるとき、住宅の選択の仕方は、かつてとはまったく違うものになっているのです。
「人の生き方」に寄り添う開発力を持ったメーカー
そうした中で、消費者が求めている特性を上手にとらえる企業が伸びています。健康に気を付ける、環境に配慮する、求められる特性はさまざまです。
例えばシャワー。テレビのコマーシャルでもやっていますが、シャワーヘッドの穴からナノバブルが発生し、流すだけでなんでも汚れが落ちてしまう。そうした製品はジャパンホーム&ビルディングショーにも出展しています。
売れ行きを聞くと、すごく引き合いが多くて、大きな工務店の多くが採用してくれた、といいます。
なぜ消費者が求める製品を開発できるのでしょうか。
その答えの一つが、BtoCでの販売数です。シャワーを売っている設備メーカーだと、何千人とか何万人という単位でユーザーと接触しています。
このマーケティング機能により、消費者の生き方と住まいに関するニーズをキャッチアップし、新しい住宅市場で大きく戦える力を持っているわけです。
部材・建材・設備メーカーのBtoCチャネルとDIY熱
部材・建材・設備メーカーが消費者との接点を持ちやすくなっている背景には、彼らの商品が家電店やホームセンターで豊富に取り扱われるようになったこともあります。
従来、部材・建材・設備というと、工務店やデベロッパーを通して消費者の手に届くものでした。しかし、今はネットを含めた消費者向けの流通チャネルでも販売されています。
なぜホームセンターなどでの取り扱いが増えたのか。それはDIY熱です。
ホームセンターなどに行くと、売っている部材・建材・設備の種類がどんどん増えています。これは「人の生き方」と住宅が切り離せなくなった動きと比例していて、多くの人が自分の生き方にあった家を、自分の手で作りたいのです。
消費者が部材・建材・設備を選ぶときは、全世界の製品が選択肢になっています。
アマゾンや海外サイトのアカウントを持ち、窓枠をパリから送ってもらったり、気に入ったドアをイギリスから買ったり、ということを当たり前のように行う人も出てきています。

ジャパンホーム&ビルディングショーでニーズがわかる
ジャパンホーム&ビルディングショーに出展される企業の方々も来場される方々も、それぞれにテーマを持たれていると思いますが、今、住宅産業が消費者の生き方と大きく結びついてきていることを、展示会の至るところで発見するはずです。
部材・建材・設備メーカーの中には、そういうしたニーズにビビッドに反応して、工務店の心をつかむプレゼンテーションしているところがあるでしょうし、来場する工務店やデベロッパーの中にも強い危機意識を持っているところがあるでしょう。
あれだけの数の企業が一堂に集まるわけですから、みんながどんな方向を向いて考え始めているのか、あの場にいればおのずとわかります。
そうした機会はじつはふだんの業務ではほとんどないはずです。たった1日、会場を回るだけでそれがつかめるというのは貴重な機会です。
従来からある新築やリフォームの市場に向けて、実際に使える製品やパートナーを見つけるというのも展示会のベーシックな役割の一つ。
そして、これから拡大が見込まれるリユース、リフォーム、カスタマイズ市場に向けて、新しいパートナーを見つけていくこも大事な役割だと思います。
展示会に来てもらえば、工務店と部材・建材・設備メーカーという関係はもちろんのこと、部材・建材・設備メーカー同士の関係においても、新しいアイデアやヒントを得られることは間違いないでしょう。
